皆さんはじめまして、Tropicでライターをやっているガッツ高橋と申します。ふだんはラジオ業界を中心に、放送作家をやっております。若い頃から、クラシック、ジャズ、ロック、ポップス、R&B、ヒップホップ、クラブミュージック、ワールドミュージック…といった古今東西の膨大な数の音楽を浴びるように吸収してきたおかげで世界中の良質な音楽を聴き分ける耳が鍛えられ、その能力を活かしながらこれまで数多くの音楽番組等に携わってきました。そんな流れで、先日発売されたTropic創刊号でも音楽コラムの連載を担当させていただき、その中で2枚のアルバムを紹介しました。どんな作品を紹介したのかについては、ぜひTropic創刊号をお手にとって読んでいただくとして、このブログやサイト内の「音楽衝撃」では番外編的に、最近お気に入りの音楽を紹介していきたいと思います。
…と思ったのですが、今回は、音楽というよりもYouTube映像がメインとなります。個人的に最近、世界遺産が撮影された映像をYouTubeで観ることにハマっています。実を言いますと、僕は20代の仕事盛りだった時期にラジオの仕事を全部放り投げて、1年ほど世界中を放浪する旅に出たことがあります。そのときに数多くの世界遺産にも訪れましたが、当時はまだドローン技術や360度カメラなどを個人で手に入れられるような時代ではありませんでしたので、気に入った風景をせいぜい写真に収める程度のことしかできませんでした。TBSで毎週日曜日に放送されている『世界遺産』を観るたびに、ものすごく高性能なカメラで臨場感のある映像が撮影されていて、「やっぱりプロが撮影する映像はすごいなあ」と感銘を受けたものです。ところが最近ではドローンを個人レベルでも使用できるようになったおかげなのか、世界中のいろんな風景をドローンで撮影した映像をYouTubeにアップする人たちが増えてきました。そういう時代の流れの中で、僕はかつて世界放浪の旅で巡った世界遺産が撮影されたYouTube映像を観ては懐かしい気持ちになったり、まだ訪れたことのない世界遺産の映像を観ながら「いずれここに行ってみたいなあ」などとあれこれ勝手に妄想しながら楽しませてもらっています。あっ、ちなみに、別に世界遺産だけに限らず、世界にはいろんな素敵な場所がいっぱいあるんですけどね。
前置きが長くなりましたが、そんなわけで今回、僕がご紹介するのは「THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)」というYouTube映像です。THE LAKE DISTRICTというのは、イギリス北西部に広がる「湖水地方」のことで、2017年、世界遺産に登録されました。氷河によってできた湖と、羊が放牧されている風景はピーターラビットの舞台になったことでも知られています。僕は世界放浪の旅でイギリスを縦断したとき、湖水地方をスキップしてしまったので、残念ながら未だにこの地を訪れたことがありません。この「THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)」はドローンで撮影した9分ほどの映像が収められており、湖水地方の山・湖・氷河などさまざまな自然の風景をダイナミックに映し出しています。これらの風景を観れば観るほど、「くそー、あのとき湖水地方をスキップせずにちゃんと訪れておけばよかった」と、悔しい気持ちになるぐらいです。
THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)
「THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)」の映像を作ったのは、Michael Lazenbyというクリエイターで、イギリス北西部に住む映像作家/写真家とのことです。ふだんどのくらいプロフェッショナルな領域の仕事をされているのかはよくわかりませんが、ドローン撮影の映像を観る限り、かなり美しい映像を作る腕前は確かなようです。映像にはBGMが付けられているのですが、この音楽がとても良質な出来栄えだったので、これにはちょっと驚きました。というのは、僕は最近、こういったCinematic Drone Filmと呼ばれる類の映像をYouTubeでたくさん漁って観ているのですが、それらの映像に付けられた音楽が98%の確率で退屈なものばかりだということにうんざりしていたところだったのです。「ドローンの映像はいいんだけど、音楽がちょっとイマイチだなあ…」と思わされるものばかりだったのですが、Michael LazenbyさんのYouTube映像に付けられた音楽に限っては、どれも良いのです。おそらくMichael Lazenbyさんは映像のセンスだけでなく、選曲のセンスも優れた人物なのでしょう。そんなわけで、映像に付けられた音楽のほうも気になって調べてみたところ、「THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)」の音楽は、Tony Andersonというアメリカの作曲家/アーティストが作った「Butterflies」という曲であることがわかりました。
Tony Anderson "Butterflies"
Tony Andersonの「Butterflies」は一聴しただけだと、そのへんに転がっている凡百のインスト楽曲と同じように聴こえるかもしれません。実際、1980年代にニューエイジ・ミュージックやヒーリング・ミュージックと呼ばれるジャンルが一斉を風靡し、静かなピアノ音楽が流行った時期がありましたが、その8割以上は音楽的にまったく面白くないものでした。Tony Andersonの音楽もサウンドだけを聴けば一瞬それらと同じ類のようにも聴こえますが、この人の音楽が優れているのは、ポストロック、エレクトロニカ、アンビエント、ポストクラシカルといった同時代的な音楽要素を上手く取り入れているところです。アイスランドのポストロックを代表するバンドであるシガー・ロスの音楽性に通じる叙情的なものを感じた方もおられるかもしれません。
映像に付けられたBGMというのは、ときには映像以上に強烈な印象を与えることもあり、たとえば、エンニオ・モリコーネ、ニーノ・ロータ、フランシス・レイ、坂本龍一といった優れた作曲家たちが作った映画音楽はもはや「BGM=Back Ground Music」という範疇に収まるようなものではありません。Tony Andersonの「Butterflies」も、Michael Lazenbyが撮影した湖水地方の美しいドローン映像と合わさり、その結果、「THE LAKE DISTRICT - Cinematic Drone Film (2017)」はエモーショナルな映像作品に仕上がっています。こんな素晴らしい映像がYouTubeで無料で観られるというのは、つくづく良い時代になったなあと感じます。もちろん、その場所が持つ空気感や匂いなど、現地に降り立って初めて経験できることがあるのも事実です。そういった経験を求めて出かけることこそ、僕らが旅に出る理由のひとつなんだろうなと思います。でもまずはこういう映像を観ることによって、「ああ、こんな素敵な場所を旅してみたいな〜」という気分になる…それだけでもじゅうぶんなエンターテインメントなのではないでしょうか。いま冬休みを満喫していらっしゃる皆さんもぜひ一度、イギリス湖水地方のドローン映像をご覧になって、束の間のヴァーチャルトリップを味わっていただければと思います。


2025/12/30 21:26
