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「モグラ君、地上へ行く――階級国家ニッポンの寓話」
原案    橋本健二(社会学者/早大教授)
作画    芦沢ムネト(パップコーン)

プロローグ    モグラ君のめざめ    
 地下は静かだった。
湿った土の匂い、遠くで響く水滴の音、そして、誰にも見られない安心感。
モグラ君は、そんな地下の暮らしに慣れきっていた。
 モグラ君の仕事はコンビニのアルバイト。
今日も地下通路の奥にあるコンビニ「アンダーモール」地下街店でレジを打っていた。  
時給は1226円。シフトは週6。交通費は出ない。  
「いらっしゃいませ~」と声を出すたび、喉が乾いていく。
客は少ない。
「まあ、こんなもんだろう」  
それがモグラ君の口癖だった。  
でも、ある日――
地上から差し込む光が、いつもより強く感じられた。
それは、ただの太陽光ではなかった。
何かが、彼の中で“ざわめいた”のだ。
 「なんで俺たちは、いつも下にいるんだろう」
「地上って、どんな場所なんだろう」
「もしかして、俺たちだけが“知らない”んじゃないか?」
その夜、モグラ君は眠れなかった。
土の中の温もりが、急に冷たく感じられた。
 翌朝、彼は決意した。
「行こう。地上へ。見てやるよ、この世界の“本当の姿”を」
こうして、モグラ君の旅が始まった。
それは、階級という名の“見えない壁”を越える旅。
それは、怒りと希望が交錯する、魂の物語だった。