近年、アンビエント音楽がある種の復活を遂げているそうです。レッドブルがまとめた記事によれば、クラブシーンでもアンビエントは復活を遂げており、1990年代のクラブシーンで人気があった “チルアウトルーム” がUKのクラブやフェスティバルで再び用意されるようになっているとのことです。1990年代初頭に登場したアンビエント・テクノは激しいダンス・ミュージックとは対極的な、静かで落ち着いた雰囲気を持ったテクノであり、テクノの反復的なリズムとアンビエントの空間性を組み合わせていました。当時、そんなアンビエント・テクノやチルアウトと呼ばれるシーンを牽引していたのは、エイフェックス・ツインやジ・オーブなどのアーティストたちでしたが、その中でも僕自身は、彼らとはまた別のアーティストが作り出す音楽に夢中になっていました。それが今回ご紹介する、ミックスマスター・モリスです。

世界のチルアウトおよびアンビエント・ミュージック・シーンの最重要人物とされているミックスマスター・モリスは1965年生まれ、イギリス・ブライトン出身です。大学卒業後、1985年、ロンドンの無認可ラジオで始めた自分の番組「Mongolian Hip Hop Show」からDJのキャリアをスタート。ロンドンのクラブを中心に活躍し、1987年より、自身のプロジェクト”The Irresistible Force”としての作品作りを始めたそうです。The Irresistible Forceは1992年、ファースト・アルバム『Flying High』を三大テクノレーベルのひとつでもあったRising Highからリリースしました。この『Flying High』とセカンド・アルバム『Global Chillage』ではディープなアンビエント・ミュージックが展開されており、その段階ではまだダンス・ビートがほとんど導入されていませんでした。ところが、1998年、コールドカットが主宰するNinja Tuneからリリースされたサード・アルバム『It's Tomorrow Already』では、ドラムンベースやブレイクビーツ、ダウンテンポをはじめとしたダンス・ビートが全編にわたって導入されていました。

The Irresistible Forceのサード・アルバム『It's Tomorrow Already』はチルアウトやアンビエント・ミュージック・シーンにおける歴史的な名盤だと思います。僕は当時、このサウンドに衝撃を受け、来る日も来る日もCDを聴き続けた記憶があります。ミックスマスター・モリスはDJとしても多くのミックスを残していますが、それらを聴いてみると、実に膨大な音楽の中から、抜群のセンスで楽曲をセレクトしていることがわかります。クラブDJというのはどうしても選曲がダンス・ミュージックだけに偏りがちになってしまうものですが、ミックスマスター・モリスの選曲は、ジャズからR&B、アンビエント・ミュージックからワールド・ミュージックに至るまで、幅広いジャンルを網羅しています。そんな抜群のサウンドセンスはThe Irresistible Forceの楽曲政策にも存分に活かされているようです。今回は、歴史的名盤『It's Tomorrow Already』から、「Fish Dances」という楽曲をご紹介します。ぜひ、センスの塊とも言えるようなサウンドを体感していただきたいと思います。

The Irresistible Force "Fish Dances"