ジェイソン・フォークナーのことを説明するとき、僕たち音楽ファンはつい「元ジェリーフィッシュ」という表現を使ってしまいがちです。ジェリーフィッシュというのは1990年代のパワー・ポップを代表するグループで、彼らが残した2枚のアルバムはいずれもパワー・ポップの名盤として高い評価を得ています。ジェイソン・フォークナーはジェリーフィッシュのギタリストでしたが、実はファースト・アルバムをリリースした後にあっさり脱退してしまい、「ザ・グレイズ」というバンドを経て、それ以降はソロのシンガーソングライターとして活動しています。つまり、ジェリーフィッシュにはごくわずかな期間しか在籍していなかったので、果たして「元ジェリーフィッシュ」という表現が本当にふさわしいのかどうか疑問に感じてしまうところがあります。しかし、「あのジェリーフィッシュに所属していた…」という表現を使えば、音楽通にとっては「すごい!」となるので、僕たち音楽ファンはつい「元ジェリーフィッシュ」と紹介してしまうわけです。ジェリーフィッシュというバンドはそれだけ伝説的なグループだったとも言えるでしょう。

ジェイソン・フォークナーはジェリーフィッシュに在籍していた期間中、バンドの中に居場所を見出すことができなかったそうです。ジェリーフィッシュのファースト・アルバム『Bellybutton』のクレジットを確認してみると、すべての曲がアンディ・スターマーとロジャー・ジョセフ・マニングJr.の2人、もしくはアンディ・スターマー1人によって書かれたとされています。アンディ・スターマーとロジャー・ジョセフ・マニングJr.は高校の同級生であり、彼ら2人がジェリーフィッシュを結成したところに後からジェイソン・フォークナーが加入した形になるので、おそらくバンドの主導権はアンディ・スターマーとロジャー・ジョセフ・マニングJr.の2人にあったのでしょう。結局、ジェイソン・フォークナーの楽曲はジェリーフィッシュのファースト・アルバムで1曲も採用されなかったことになります。

この話を読んで、ザ・ビートルズのことを思い出した人もいらっしゃるかもしれません。ザ・ビートルズにおいても、2人の偉大なソングライター、ジョン・レノンとポール・マッカートニーがほぼ大半の楽曲を作っていましたが、ジョージ・ハリスンの作った楽曲はアルバムの中で1〜2曲ほどしか採用されませんでした。ただし、ジョージ・ハリスンはザ・ビートルズの中期〜後期にかけて、素晴らしい楽曲を作るようになっていき、事実上のラスト・アルバム『Abbey Road』では「Something」という名曲を作り上げ、ザ・ビートルズ史上でジョージ作品が初めてシングル・カットされるなど、ジョン・レノンやポール・マッカートニーの楽曲群に肩を並べるまでに至りました。ちなみに、ジョージ・ハリスンはザ・ビートルズ解散後の1970年、それまでのうっぷんを晴らすかのように、いきなり2枚組の大作ソロ・アルバム『All Things Must Pass』を発表しました。

僕自身は、ザ・ビートルズであればジョン派でもなくポール派でもなくジョージ派です。YMOであれば細野派でもなく坂本派でもなく幸宏派です。なので、ジェイソン・フォークナーがジェリーフィッシュ脱退後、ソロのシンガーソングライターとしてデビュー・アルバムをリリースするというニュースを見たとき、「これはもしかすると、同じ派閥かも?」と期待しました。それまでジェイソン・フォークナーが作った楽曲を1曲も聴いたことがなかったため、ちょっと不安な気持ちはありましたが、ソロ・アルバムを聴いた瞬間、その不安は吹き飛び、またひとり素晴らしいアーティストを見つけたという喜びでいっぱいになりました。アンディ・スターマーやロジャー・ジョセフ・マニングJr.が作ったジェリーフィッシュの楽曲はおもちゃ箱をひっくり返したようなポップス万華鏡とも言えるものでしたが、ジェイソン・フォークナーの作る楽曲にはどこか哀愁や叙情性が漂っているように感じます。それはまさに音楽性の違いと言えるものですが、僕個人としてはジェイソン・フォークナーの持つ音楽性にシンパシーを感じるのです。

さて、今回、ご紹介するのは、そんなジェイソン・フォークナーが持つ哀愁や叙情性を感じられる楽曲「Revelation」です。1999年のセカンド・アルバム『Can You Still Feel?』に収録されていますが、このアルバムでは共同プロデューサーに、レディオヘッドやベックなどの仕事で有名なナイジェル・ゴッドリッチが起用されています。ジェイソン・フォークナーはもともとすべての演奏を1人でこなし、他のアーティストのプロデュースも手がけてしまうほどマルチな才能の持ち主なので、アルバムの全体像そのものは前作から大きく変化していません。しかし、ナイジェル・ゴッドリッチが参加したことによって、マットな質感が加えられているように感じます。ジェイソン・フォークナーという、ジェリーフィッシュのときには表に出ることがなかったこの才能をぜひ味わっていただきたいと思います。

Jason Falkner "Revelation"